こんな職人います!

【草木染め職人】やわりゆらり


昭和47年(1972)生まれ。
宮崎県在住。
平成19年(2007)ご主人の故郷の宮崎へ家族で帰郷。
出身は滋賀県長浜市浜ちりめんの里。

父親の実家が機織り機(はたおりき)を扱い、母親の実家が養蚕農家という環境で育った。
また母親が近くから樹木や山野草を集め庭に植え、住宅街の中の家がまるで森のようだったという。
その母親の影響で子供の頃から植物に興味があり、自然に触れ、山に入り草木を採取して持ち帰っていた。
その背景を生かし20代の頃から押し花教室(生涯学習)の講師も経験している。

【草木染めのきっかけ】

「平成20年(2008)新聞の募集欄「〜コウゾで布を織りませんか~茶臼原自然芸術館」の記事が目に留まり導かれるように子供と一緒に参加。
楮(コウゾ)の枝を採取して、大きなドラム缶で蒸して、叩き、繊維を引き出し、その繊維を紡いで糸にして織機で織るワークショップ。
一連の作業を体験して、子供たちの反応がとても印象に残ったという。
このワークショップがきっかけとなり、草木染めの世界に引き込まれた。
その後体調を崩し、自分の体調を整えるためにこのワークショップで学んだ草木染めを使用し体調を回復した経験を持つ。
平成23年(2011)東日本大震災、友達が福島県浪江町で被災。
その友達との交流を経て「本当に自分のやりたいことは何だろう?」と自分を見つめ直し、生きる道を決めたという。

【草木染め】


草木染めは、古くから利用されているもので決して新しいものではない。
私たちが良く見聞きする草木染めは、希少価値の高いものが多い。
例えば天皇陛下が国内外に即位を示す際に召されるお着物は、入手困難な植物など特別なもので染められている。
彼女が主催するワークショップで使う原料は、自分が住んでいる所、生まれた所、手の届く場所にある草木が中心だ。
その身近にある草木が薬草であり、染料になるという。
そんな経験から一番身近に宝物があったことに気づく。
煎じて飲む、食べる、織って着る。衣食住を賄えるということを昔の人達は理解していたのではないか。
染めだけではなく、草木に集まる虫、動物も含めて自分たちの生活に結び付く。
総称して雑草と呼ばれるものは生命力が強い。その雑草を使い染めた布を肌身につけることで自分達も強くなるのではないか。
植物をエネルギー体として捉えれば、一番ピークの時に利用することで私たちも高いエネルギーを頂くことになる。まだまだこれから、もっともっと試していきたいという。

【人のご縁】


知り合いから「熊本のデパートに出店してみないか?」と誘われ、草木染めの製作から販売が本格的にスタートする。
そのデパートの出店の際、片付けを手伝ってくれた方が神戸デパートの企画担当者。
その場で「私の企画に参加してみないか?」と言われ、誘われるままに出店し、一回目の売り上げが目標額を超える。
これを皮切りに、兵庫県をはじめ愛知県、静岡県、大阪、東京と出店することになる。
行く先々で、「私はこのために来たんだ」という出会いが沢山あった。
全てが誰かのご縁。
だから先々のことは余り心配しない。逆に解からない道だからこそワクワクするのかも知れないという。
デパートでの出店は売上げ優先ではなく経験重視、新しい風を持ち帰るという感覚で出向いてきた。
展示会へ出向くようになって、「私もやりたい」という方が増えて来たので、ワークショップを開いている。
その中で「ご自分の肌着、下着を作られたらどうですか?」と提案しているという。

【ガーゼのこと】

子供たちは肌触りの良さからガーゼを好む。大人もその記憶を持っている。
着物を着る際の肌襦袢(はだじゅばん)もガーゼ。
ゆったりと織ってあるガーゼは、暑い夏は汗を吸い取り通気性に富む。
寒い冬はその空間に体温を保持し暖かい。
つまり一年中着る肌襦袢は日本の気候に適している。
さらに全体の糸の使用量が少ないので軽い。重ね着しても肩が凝らない。このことで於血(おけつ)血液の滞りを防いでくれるという。
また傷の手当の際に使われるのもガーゼ。
ガーゼ自体に人を癒す何かがあるのかも知れない。
一番大切にしていることは、最近、皮膚が弱い方が多いので、どんな人がどのタイミングで使っても安心して使えるように、検査基準の高い国産のガーゼを探し、自分で出向き、確認して生産者の顔の見えるガーゼ、国産のガーゼを使用しているという。

【私たちよりも先を行く植物】


植物が地球上に現れたのは、私たちよりも先。
生き方的にも私たちより先。なぜなら自分の役割に忠実に生きているからだと言う。
森に入ると、手引書も、参考書もいらず森から教えてもらえる。森の中に答えがある。調和が取れて自然だから。
私たちが体調を崩したり、気持が不安になったりするのは、不自然な状態だと言う。
その不自然さを元に戻すために森に入り調整を試みる。
森はどの季節も調和が取れている。その森を見て自分に欠けているものを発見すると植物を無下には扱えない。
「本当は、敬意を持って接することが良いのかも知れないけど、親しみを込めて友達として教えて頂いているという感覚」そんな気持ちで草木と接しているという。

【ボタンの掛け違い】


ある竹職人さんの一言を記憶している。
「みんな跡継ぎが居なくなって、生活ができない」と漏らす人に対して、「生活ができないというのは愚痴じゃ」と返されたそうだ。
その言葉を聞いて、「自分が原点に帰れた」と言う。
「生活ができるからこの仕事をやる」という考え方は、「何かボタンの掛け違いなのかも知れない」「人生に悩んでいる人は、そのあたりで戸惑っているのかも知れない」と言う。

くるから村/やわりゆらり販売所